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 この記事はHME2010用で展示したものです。コメントの一部にHME当日用の記述が残っていますが、あえてそのまま使用していますので、ご了承下さい。(管理人)

はじめに
 まず、「ぺたんこ戦車」とはなんぞや、ということをお話ししなければなりません。企画者曰く、「密閉された戦闘室を持つ装軌式対戦車自走砲」で、「だいたいぺたんこなヤツ」とのことです。

 一同しばしあきれておりましたが、良識ある会員が、旋回砲塔を持たない自走砲は戦車ではないのでは?と忠告しました。そのとたんに企画者が暴れ出し、HME会場にバキュームカーを横付けし、凄まじく大変な物をぶちまけてやるなどと叫び始めたため、そのへんはうやむやにしてやることにしました。そんなことはさておき・・・

 実は、現在「ぺたんこ戦車」の定義に該当する車両は運用されていません。一時は非常に重要な役割を果たしたのですが、恐竜と同様に絶滅してしまったのです。今回は、会員の作品(製作途中のものを含む)から、その栄枯盛衰のながれを見ていきたいと思います。


展示室1 ぺたんこ戦車の誕生
 ○戦車の誕生 第1次世界大戦〜

 第一次大戦中、膠着状態となった塹壕戦を打破するべく、イギリスが最初の戦車、「マーク1菱形戦車」を開発し、戦線に投入しました。
 時をほぼ同じくして、フランスも「シュナイダー突撃戦車」を皮切りに、ルノーFT戦車(ここではイタリア版「フィアット3000突撃戦車」展示)などの戦車を開発し、一気に戦車の時代が始まりました。
 戦車黎明期の形は多様で、ぺたんこ戦車に該当するものはポーランドの「TK-S」くらいでしょうか。ただ、この時代に旋回砲塔を持つルノーFT戦車が誕生し、現在の戦車(MBT)への潮流が始まりました。
マークT菱形戦車 雄型
パンツアーショップ 1/35  (須藤)
シュナイダー突撃戦車
コマンダーセリエスモデルズ 1/35 (須藤)
TK−S豆戦車
ミラージュ 1/35 (須藤)
フィアット 3000突撃戦車
タウロモデル 1/35 (須藤)

展示室2 ぺたんこ戦車、大地に立つ
 ○「突撃砲」の誕生 第2次大戦前〜

 第1次大戦後、ベルサイユ条約下で密かに再軍備を進めていたドイツでは、歩兵を支援し敵陣地を突破する「突撃砲」の開発を進めました。完成した「V号突撃砲」は、V号戦車の車体に短砲身7.5cm砲を搭載していました。混沌としていた戦闘車両の歴史の中から、「密閉された戦闘室を持つ装軌式対戦車自走砲」という「ぺたんこ戦車」の潮流が生まれた瞬間です。ただし、「対戦車」という目的はまだ副次的なものでした。
 イタリアの「セモベンテM40 75/18」も、同様な目的の車両です。
III号突撃砲 E型
ドラゴン 1/35  (Type75)
セモベンテ M40 75/18
イタレリ 1/35  (浜田)

展示室3 新たな使命
 ○T-34ショック 第2次大戦〜

 1939年、ドイツ軍によるポーランド侵攻で第2次世界大戦は始まりました。大戦初期、ドイツ軍は戦車を中核とした機甲部隊による電撃戦によりほぼ連戦連勝の状態でした。勢いづいたドイツ軍は、1941年、ソビエトに侵攻します。ドイツ軍は当初、破竹の勢いで進軍していましたが、ソビエトの新兵器「T-34/76中戦車」が投入されました。当初は未熟な運用により十分な戦果をあげることはできませんでしたが、ドイツの戦車砲をはじき返す強固な装甲と、ドイツ戦車を破壊できる強力な砲、高い機動力を持っていました。

 ○対戦車突撃砲の誕生

 ソビエト製T34/76中戦車の実戦投入は、ドイツ軍のほぼ全ての戦車を時代遅れにしてしまいました。ドイツ軍司令部は、この事実に大きな衝撃を受け、急遽T-34に対抗できる兵器の開発を急ぎます。しかし、新戦車の開発には時間がかかるため、あり合わせの車両に強力な対戦車砲を載せた対戦車車両が多種急造されました。
 歩兵支援を主目的としていた「III号突撃砲」も、より威力の大きな長砲身砲を搭載し、「対戦車」任務が主体となりました。その後、空襲によりV号戦車の車体供給が滞ったため、W号戦車の車体を使った
「W号突撃砲」が造られました。
T-34/76 中戦車 1940年型
ドラゴン 1/35 (鈴木)
III号突撃砲 G型
ドラゴン 1/35 (小澤)
IV号突撃砲
タミヤ 1/35 (渡辺)

展示室4 駆逐戦車への進化と繁栄
 ○対戦車任務への適応

 ドイツ軍は、対戦車突撃砲の有効性を認識しましたが、装甲が垂直に近く、防御力が不十分という問題がありました。そこで、W号戦車の車体を流用し、対戦車砲と傾斜装甲を備えた「IV号駆逐戦車A0型(試作型)」、攻撃力を増した「IV号駆逐戦車/70(V)」、さらにV号戦車ベースの「V号駆逐戦車ヤークトパンター」を開発しました。ソ連もT-34をベースに「SU-85駆逐戦車」を開発し、対抗していきます。
 他方、日本は九七式中戦車をベースに「三式砲戦車」を開発しましたが、終戦まで対戦車兵器の不足は続きました。

 ○より強大に

 ドイツでは、さらに巨大駆逐戦車、「フェルディナント重駆逐戦車」「エレファント重駆逐戦車」「VI号駆逐戦車ヤークトティーガー」が開発されました。一見無敵に見えますが、過剰な重量、故障しやすい、燃費が悪いなど、運用上は多くの問題を抱えていました。
 一方ソ連も、より強大な砲を搭載した駆逐戦車を開発します。T-34ベースの「SU-122駆逐戦車」「SU-152重突撃砲」、JS-2戦車ベースの「ISU-122重駆逐戦車」「ISU-152重突撃砲」などがそれですが、対戦車砲以外の砲を流用したことにより、発射速度の低下、携行弾数不足などの問題がありました。

 ◯より簡素に、大量に

 第二次大戦後期のドイツでは、工業地帯への空襲により生産能力が大きく低下しました。そこで、簡単に生産可能な駆逐戦車が造られました。チェコスロバキア製38(t)戦車をベースにした「38(t)駆逐戦車ヘッツァー」は、貧弱な防御力でしたが大量に戦線に投入され、一定の戦果をあげました。
 さらに、生産性向上を目指し、パワーユニットをはじめとして多くの部品を共通化した「E-10駆逐戦車」「E-25駆逐戦車」などが計画されましたが、実際に生産されることなく終戦を迎えました。
IV号駆逐戦車 A0型
ドラゴン 1/35 (鈴木)
IV号駆逐戦車 F型
タミヤ 1/35 (田村)
IV号駆逐戦車 /70(V)型
タミヤ 1/35 (宮野)
V号駆逐戦車ヤークトパンター
タミヤ 1/35 (鈴木)
SU-85 駆逐戦車
タミヤ 1/35 (Beagle)
三式砲戦車 ホニIII
ファインモールド 1/35 (Type75)
フェルディナント重駆逐戦車
ドラゴン 1/35 (プラモ人)
エレファント重駆逐戦車
ドラゴン 1/35 (島津)
Y号駆逐戦車ヤークトティーガー
ドラゴン 1/35 (プラモ人)
SU-122 駆逐戦車
タミヤ 1/35 (Beagle)
SU-152 重突撃砲
イースタンエキスプレス 1/35 (須藤)
ISU-122 駆逐戦車
ドラゴン 1/35 (鈴木)
38(t)駆逐戦車 ヘッツァー
タミヤ 1/35 (Type75)
E-10 駆逐戦車(設計案)
トランペッター 1/35 (鈴木)
E-25 駆逐戦車(設計案)
トランペッター 1/35 (鈴木)

展示室5 ぺたんこ戦車の終焉
 ◯第二次大戦後のぺたんこ戦車

 終戦後もぺたんこ戦車は開発、運用されました。ソ連やチェコでは戦時中に造られた駆逐戦車がそのまま使われました。
 スウェーデンは、砲塔が無く待ち伏せに適した「Strv.103戦車」を独自に開発し、運用していました。
 また、西ドイツでは「W号駆逐戦車」や「E-25駆逐戦車」のシルエットに似た「カノーネンヤクトパンツァー」が開発、運用されました。
 しかし、これらの駆逐戦車はほとんど更新されることなく、現在ではほとんどが退役してしまっています。

 ◯ぺたんこ戦車を継ぐもの

 近代になると、旋回砲塔を持つ戦車(現在のMBT)の反映とは対照的に、ぺたんこ戦車は衰退しました。その原因のひとつは、第二次大戦後期に芽生えていました。歩兵が携行できる対戦車兵器「パンツァーファウスト」(*1)や「バズーカ砲」が登場していたのです。これはロケット推進式の成形炸薬弾を発射するもので、厚い装甲板を撃ちぬく能力があります。今でも世界各地の紛争地帯で使われている「RPG」も基本的に同様なものです。
 さらに、対戦車ミサイル、対戦車ヘリコプターなども登場し、ぺたんこ戦車の担っていた役割を受け継いでいます。

*1 管理人注:パンツァーファウストは正確には外装式の無反動砲の一種です。
Strv.103 戦車
トランペッター 1/35 (鈴木)
カノーネンヤクトパンツァー
ドイツレベル 1/35 (小澤)
パンツァーファウスト 30型
ドラゴン 1/35、1/16 (深谷)
 
 
さいごに
 「ぺたんこな形した駆逐戦車をずらーーーーーーっと並べてみたらおもしろいんじゃね?」という思いつきで始まった企画でしたが、ノースフォックス会員各位の協力もあり、なんとか形になりました。
 ご感想、ご意見などございましたらHMEアンケートにご記入ください。次回企画の参考にさせていただきます。それ以前に、感想をうかがうだけでも、とっても嬉しいと思います。
 各車両の諸元等については、戦車関連の神サイト、「戦車研究室」http://combat1.sakura.ne.jp/ を参考にさせていただきました。深く感謝いたします。(小澤)