なぜタミヤV号は首をすくめたか      西村


 タミヤの1/35 V号戦車L型、N型は基本同じパーツなのでスタイルは同じです。しかしこれらは他メーカーのV号とはどこか少し印象が違うのです。擬人化すると少し首をすくめたような感じ。更に言うとV号独特の少し前のめりな感じが足りない。以前から気にはなっていたので、今となっては古いキットではありますがその理由を調べてみました。

採寸結果

 手持ちの1/35 V号キットと手持ちの実車写真から気になる寸法を測ってみることにしました。併せて書物にあった図面からも採寸した結果、表のようになりました。


 水色は他に比べて特に小さな値、オレンジ色は大きな値を示します。キットの採寸では場所によっては0.3mm程度の誤差はあるかもしれません。

 タミヤN型、グンゼJ型、ドラゴンG型はいずれも完成品から、アカデミーはパーツ状態からの採寸です。図は富岡さんがアルゴノート社 ピクトリアルV号戦車シリーズ 増補改訂版、遠藤さんがグランドパワー1994年7月号のものです。前者はスケールが印刷されていたのでそちらを優先しています。
 実車写真はサンデーアート社(現アルゴノート社)ピクトリアル ドイツ軍戦車のV号戦車8頁目からスキャンしたものです。この写真は北アフリカで英軍に鹵獲されたJ型が、本国で調査された際のものです(下図参照)。同一車輛の別アングル写真がアルゴノート社ピクトリアルV号戦車にも載っており、フェンダー等の歪みも少ないきれいな状態であることが分かります。もう1枚、グランドパワー2001年8月号P.54のJ型写真からも採寸しましたが、ほとんど同じだったので表では1つにまとめました。


違和感の元

 採寸の結果、タミヤ版には次の大きな特徴があることが分かりました。タミヤV号戦車が首をすくめているように見える理由はこれらと思われます。

  1. フェンダーの第1〜第2ステー間の前傾が0.7mm欲しいところ、0.25mmと不足である上、フェンダーの最も高い面から車体上面の高さが他社製に比べて足りない結果、特に前方で車体上部の背が低く見える。
  2. 砲塔上面の幅が他社に比べ特に狭く、砲塔側面の傾斜が強い。


 の0.7mmについては表にはありませんが、実車写真採寸でその差がありました。キットも他社はタミヤより明らかに前傾が大きく再現されています。むしろ他社でフェンダーの最も高い位置から車体上面が7.5〜7.7mmあるのは一種のデフォルメかもしれません。
 V号は駆動輪より誘導輪が少し高い位置にあり、履帯全体で少し前につんのめった感じがあり、それがフェンダーでも表現されていたのですが、タミヤはそれが足りないのです。
 また、実際にボービントンのV号戦車を見学した方から「タミヤでは車体上下接合板から上の高さが3cmほど不足」との情報を頂きました。1/35だと1mm弱ですね。

 Bの砲塔上面の幅が小さい件については、少なくとも昔のタミヤは実車取材した際の印象に近づけるよう模型をデフォルメしており、砲塔側面の傾斜がきついというのはカルロアルマートM14/30と同様に当時のタミヤあるあるの一つでしょう。ここは好みの問題かもしれませんが私はやり過ぎだと思っています。なお、写真からは採寸しづらい箇所なので模型間の比較しか出来ていません。

対策

 さて、Aに関してタミヤ版を改修するとしたらどうすれば良いか考えてみました。
 まずフェンダーの前傾が足りない点を、前部を下げて対処するか、後部を上げて対処するかですが、車体上部の高さが不足という情報も合わせると、車体上面とフェンダー後部を上げるのが良さそうです。採寸結果からすると、車体上部を0.5mmかさ上げして、フェンダー第2ステーから後ろも0.5mm上げて、第1〜第2ステー間の傾斜を増す。言葉では伝えにくいのでGIFアニメにしてみました。アニメでは0.5mmより少し多めのかさ上げです。操縦手前面の増加装甲の高さは現状で良い気がしたので変えずに置きましたが一緒に上げて良かったかもしれません。


 こうしてみると操縦手横の側面が高くなった印象がよく分かると思いますがいかがでしょうか。アニメにしたおかげで「首をすくめていた」という比喩も分かりやすくなったのでは。
 ちなみにアニメのV号戦車は砲塔を0.2mmかさ上げしています。キットのままでは砲塔の縁が直に車体上面と擦れるので、擦り傷防止にやったことです。かさ上げを増したら首すくめの対処にならないかと今回試しに0.5mmプラバンを挟んでみましたが、隙間が目立ってだめでした。

結論

 上下接合位置を維持したまま車体上部のかさ上げとフェンダー後部を上移動するとしたら、タミヤではフェンダーが車体上部と一体なので、それぞれ切り離して独立にかさ上げする必要があります。相当面倒そうではあります。またこれをやってもBの砲塔は残っています。
 GIFアニメのように車体パーツを操縦手前面装甲で前後に切り離してフェンダーごと後部を上に移動して、フェンダーは第1〜第2ステー間の傾斜を変えて何とかつなぐ、という手もありそうですが、上下接合部が連続しません。少なくとも操縦手横では接合部は上げずにおく必要があります。
 もう一つ妥協するならフェンダーの前傾には目をつぶって車体上部だけかさ上げすることです。タミヤベースで何とかするならこれが最も現実的な方法と思われます。
 それで満足できないならタミヤをあきらめることです。私が苦労して改造したM103のように唯一のキットというわけではありませんから。最近のキットはちょっと高いのが多いですが。
 でなければ気にせずそのまま組む!一番精神衛生上も良さそうです。ただ、前側の予備転輪がより首を短く見せている気がしているので、今度作るときはなしにしようと思っています。
V号大好き!(YouTuberけっけちゃん風に)

以上